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2006年 10月 06日
10月5日、作業の打ち合わせのためフルティガー氏を訪問する。朝6時にマーケティング部長のオットマー・フーファーが車で迎えに来て、スイスのベルンに向けて出発。私は朝早いのは好きなので、朝4時40分に起きて準備していた。オットマーが前日のブックメッセで買ってきた本をめくりながら車の中でいろいろ雑談した。de Jong 著の『Sans Serif』は、その名の通りサンセリフ書体の図版をいろいろ集めたソースブック。オットマーによれば、著者はライノタイプにも来て数日間資料室で調査したりスキャンしたりしたということだが私はなぜか会う機会がなかった。図版として取り上げる書体がヨーロッパ的視点だけでまとめられていてちょっと意外だった。イギリスの良いサンセリフが紹介されていない。ヨーロッパからイギリスって近いような気がするんだけど、ヨーロッパに住んでいると案外見えないのかなあと思う。私の関わった Optima nova や Avenir Next も紹介されていた。私がプレゼンテーション用につくった図版がそのまま載っているのもびっくりした。じつは Optima nova の図版で、一箇所間違いがあるんです。プレゼンテーションが終わってから気づいたんだけど、そのままにしておいたら、こんなふうに間違いをそのまま使われちゃって、ちょっと恥ずかしい。
10時過ぎにフルティガー氏邸に到着、呼び鈴を押しても誰もいない。よく考えたら、私が「10月にまた打ち合わせを」とフルティガー氏あてに書いただけで、日にちを指定するのを忘れていた! 日にちなど細かい連絡は前の週にするつもりだったのが、病欠でそれをしていなかったと気づいて冷や汗が出てきた。玄関にメモを貼り付けて、近くのカフェで休憩していようと車を走らせたら、スーパーマーケットでの買い物帰りのフルティガー氏が見えて、すぐ車を降りて挨拶して、連絡の不徹底をわびた。フルティガー氏は突然の訪問をこころよく受け入れてくださったので30分後に伺いますと言ってオットマーといったんカフェにいき、紅茶を飲む。その間打ち合わせの進め方について話す。 フルティガー氏との打ち合わせは約1時間半の予定。フルティガー氏は午後に昼寝をなさるので、その時間にじゃまにならないように12時半で切り上げ、昼食も自分達でとるつもりだからおかまいなくと最初に伝える。打ち合わせの内容は、現在制作中のサンセリフ体「Nami(波)」と、昨年提案していたセリフ書体のファミリー構成について。Nami のオルタネート文字の組み合わせについての提案をした。OpenType だから、一つのフォントの中にオルタネート文字をたくさん入れることができて、しかも書体のユーザーがバリエーションをいろいろ選べるんです、という説明に対して、フルティガー氏が微笑しながらこうおっしゃったのが印象的だった。 「それで、そのテクノロジーは粗く新しいんじゃなくて、きめ細かに新しいんだね?」 もちろんです、と答えた。これのベースとなったフルティガー氏の最初のスケッチから数十年経って、その時の彼のアイデアにようやくテクノロジーが追いついたわけで、すごく喜んでくれた。 その他に来年制作にかかる予定のセリフ書体の打ち合わせ。これも前日に用意しておいた試作のプリントアウトを見せながら説明した。「よくやってくれた」と嬉しそうだった。私の手違いで突然の訪問になってしまったのを、フルティガー氏は「eine nette Überraschung(うれしい驚き)」と何度も言ってかばってくれた。最後に固く握手をして予定通り12時半でおいとました。 昼食をとるために、前回8月末の授賞式の時に立ち寄ったベルンのショッピングセンター Wankdorf Centre に行く。この新しいショッピングセンターは、サッカー場の下にある。 ちなみにサッカー場のサインシステムにはフルティガー氏の書体 Vectora が使われている。 途中で一度高速を降りてオットマーの知り合いの農家に立ち寄る。オットマーとはロバを飼っている仲間同士ということだった。家に戻ったのは午後7時半。途中由美子に電話したら、きょうは京平の幼稚園の友達 Pablo が遊びに来ていて夕食の買い物ができなかったというので、その心配はないよと言う。最初立ち寄ったフルティガー氏邸から近いカフェで、(これも前に買って美味しかった)ハム入りのパンを買っておいたのでそれとチーズで夕食にする。もちろんモンブランそっくりの Vermicelles でしめくくる。
by akobayashi_dnikki
| 2006-10-06 11:28
| 書体デザインについての話題
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